マリア
第26章 終曲
何度も、
何度もキスをした。
ゴンドラの微妙な揺れに任せながら何度もキスをした。
やがて、ひときわ大きく揺れた、と思ったら、
さっきまで小さく見えていたものが普通の大きさに見えていて、
ああ、もう、地に足がつく場所に戻ってきたのだ、と思ったら、
普段の俺ならほっとしてしまうはずが、
誰にも邪魔されずに、目の前の恋人と触れ合える時間があとわずかなんだと考えただけで泣きそうになってしまった。
すると、フワリ、と俺の目元に何かが触れる。
智「泣かないで…」
智だった。
智の指先が、今にも零れ落ちそうになった涙を掬いあげてくれていた。
智「僕もつられて泣きそうだから。」
そう言って俯く智の手を掴み、
係員がゴンドラのドアを開けるのと同時に、そのまま智の手を引いて全力で走り出す。
二人で走って、
ずっと走って、
何処までも走って。
そうして、行き着いた先で息を整えたあと、
我に返って辺りを見回すと今までに見たことない景色に少し不安になったけど、
俺のコートの袖口を掴み、何か言いたげに見つめる智の目を見たら何故かホッとした。
そしてそのまま、俺の手を引いて歩き出す智に黙って従う。
不意に智が立ち止まり振り返る。
その先には、見るからに安っぽくて時代遅れな造りのラブホテルがあった。