マリア
第26章 終曲
智が……
身をのりだし、ドアを叩いて何とか智の気を引こうとするも、すでに電車は走り出していて、
俺の異変に気づいた智が動き出した電車とならんで歩き始める。
でも、段々速度をあげてゆく電車に追い付くはずもなく、
その姿はフレームアウトしてしまう。
俺は溜まらず、一駅目で電車を降り、智の携帯を鳴らした。
智『はい?』
普段と変わらないテンションの智に胸を撫で下ろす。
智『翔くん、どこからかけてるの?まだ、着いてないよね?』
「あ…のさ……あ、そうそう、いつにしようか、と思って?」
智『何を?』
「ほら、受験が終わったらどっか行く、ってやつ…」
智『ああ…そうだね?』
いつにしよっか?と、
返ってくる声の明るさにほっとする。
智『バレンタイン、とか?』
あ、でも、と、智が小さく呟く。
智『誕生日…』
「え?」
智『その前に、翔くんの誕生日があったな?と思って。』
「…忘れてた。」
電話の向こうから聞こえてくる音で、
智の回りの景色が智の歩く速度で移り変わってゆくのが分かった。
「その日がいい。」
智『えっ?』
「誕生日。」
智のすぐそばを通り過ぎる車の音が聞こえた。
「お祝いしてよ?智。」