マリア
第27章 悲愴曲
「いらっしゃい。」
おじさんは瞬間険しい表情で辺りを見回すと、
入って?と、玄関のドアを静かに閉めた。
「あの…智くんは…?」
恐る恐るリビングに案内してくれる背中に問いかける。
「智ならここにはいない。」
「え?いない…って…?」
「出ていったよ。」
「い、いつですか?」
「先月。誕生日の朝に。」
「誕生日…」
俺と会っていた次の日だ。
「…その顔だと、どうして出ていったのか、もう知ってるみたいだね?」
「どこ…どこに行ったんですか?」
「翔くん…」
おじさんは、俺の目の前でいきなり頭を下げた。
「この通りだ。あの子とはもう関わらないでやってくれ。」
「でも俺…」
「あの子だけじゃない。私たち家族とももう、金輪際関わらないでほしいんだ。智が何をしたのか、知った上で関わろうとしているんなら尚更だ。君自身の将来のためにもこのまま黙って帰ってくれ。」
おじさんは、頭を下げ続けた。
遠くでおばさんの、おじさんを呼ぶ声が聞こえて、
おじさんの顔が強ばる。
「探したわ。あら、そちらどなた?」