マリア
第27章 悲愴曲
俺はあの日を境に、
正月さえも返上して机に向かった。
毎年、お盆と正月は親父の実家で家族で過ごしていたが、
今回は受験を間近に控えている、という理由で家に残ることにした。
人が変わったように、勉強に打ち込む俺を見て、お袋が家に残って俺の世話をするとか言い出したので、
大学に入ったら、一人暮らしをするための予行演習だから、と、
咄嗟に言い訳を見繕って家族を送り出した。
それでも、お袋は家を空ける三日分の食事を用意していってくれた。
「頑張るのはいいことだけど無理しないのよ?」
「分かってる。いってらっしゃい。」
みんなを送り出したあと、
俺は押し入れから大きめのカバンを出し、クローゼットから服を適当に見繕って詰め込んだ。
詰め込めるだけ詰め込んでぱんぱんになったカバンを再び押し入れに隠した。
腹へったな…。
お袋が作って冷凍していってくれたカレーをレンジに放り込んだ。
そのカレーがいつにもまして旨く感じたせいか、俺は罪悪感で一杯になって、
毎回、二杯、三杯といくところだったのを、
今回だけは食える気がしなかったのでお代わりを諦めざるを得なかった。