マリア
第27章 悲愴曲
智「ごめん。もう帰らなきゃ…。」
俺の胸をそっと押し戻す手を捕まえて、行くなよ、って、
ずっと、ここにいろよ、って言えなくて、
その背中を何度となく見送ってきた。
でも、それも、もう終わる。
智のそばで、
誰にも邪魔させず、邪魔されずに、
二人で生きて行く。
「よし!!」
気合いを入れるために、顔をぺしぺしと何度も叩き、鉛筆を握り直した。
今日は不思議なぐらい、頭の中は冴えていて、
次から次へと公式や文法が頭の中に入ってくる。
少し肌寒さを感じて顔をあげると、少し空が陰ってきていて、
開け放たれた窓からは、重く冷えた空気を含んだ風が吹き込んできていた。
そして、迎えたセンター試験当日。
一週間前の陽気が嘘のような寒さに体を震わせながら家を出た。
あまりの寒さに、智からもらった赤いマフラーを探したが、
あの日、智の首に巻き付けたまま別れたことを思い出し、
仕方なくお袋からもらった使い捨てカイロを身体のあちこちにベタベタと貼りつけて、
どうせ、試験会場に入ったら要らないんだけどな?などと一人ごちながら駅へと向かった。