マリア
第27章 悲愴曲
智に気持ちを伝えてほっとしたせいか、机に向かっていても気持ちが浮わついていて、落ち着かなかった。
それもそのはず、誕生日まではあと五日。
智と離れて暮らすのもあとわずか。
俺は智と一緒に生きていく。
片時も離れず、智の側で生きてゆく。
そう思ったらもう、勉強なんて手につかなかった。
そんな浮わついた俺に、いち早く気づいたのがお袋だった。
相変わらずお袋は何かと理由をつけては部屋に入ってくるが、
とくに言葉を交わす訳でもなく、さっさと部屋を出ていく。
俺の変化にお袋が薄々気づいている一方で、
逆に俺は全く気づいてなかった。
いよいよ明後日が決行日という日の夜、
夕飯を食べ終え、リビングで親父と寛いでいた弟が大声を張り上げた。
「げ!!マジかよ?最強の寒波だってさ?」
「東京で2センチか…」
深いため息をつく親父の脇を、スマホを弄りながら弟がすり抜けてゆく。
「車のタイヤ、冬タイヤに換えないとなあ…」
と、さらに大きく息を吐く親父と目があった。
「翔、どうだ、勉強のほうは?」
「あ…うん。まあまあ。」
適当に誤魔化す俺の様子を、
洗い物をしながら、お袋の背中が無言で伺っていた。