マリア
第27章 悲愴曲
「…ざけんなっ!!」
お袋の気配が消えてもなお、俺はドアに体当たりを繰り返す。
すると、外から、また、誰かの声と気配がして、
俺はドアに耳を押し当てた。
「お兄ちゃん…?」
妹だった。
「ユキ、頼むからここ開けてくれ!」
「お兄ちゃん…どっか行っちゃうの?」
「そ…それは…」
ユキの悲しそうな声に、胸が押し潰されそうになる。
「もう、帰ってこないの?」
返事に窮していると、遠くから放っておけ、とのお袋の声がして、
再び静寂に包まれる。
智…
途方に暮れて、ドアに背を預けたまま蹲る。
そうだ!!智に連絡しなきゃ。
スマホに「少し遅れる」と打ち込むも、待ち合わせ場所に向かっている途中なのか、智からの返信はない。
智、ごめん。
ちょっと…ちょっと遅れていくけど、必ず行くから。
絶対いくから。
待ってて?智。
どれぐらいそうしていたのか、
窓をパタパタと打ち付けていた霙は雪に変わっていて、
今は音もなく地面に落ちては跡形もなく吸い込まれていった。
雪…か。
時刻はとっくに午後を回っていて、
部屋の中は、俺のため息で充満しているせいで、
俺の目には重く、薄暗く映った。