マリア
第28章 慟哭曲
なのに、智はなぜ礼音を手にかけたのだろう?
俺が目の前で苦しむ礼音を見て、急に怖くなって別れを切り出した時、
あんなに礼音の気持ちになって怒りを露にしていたぐらい、礼音のことを心配してたのに…。
礼音は礼音で、
元カレの俺が、自分の兄と付き合ってる、っていうのにイヤな顔一つせず、
俺たちのことを心配してくれたり。
あんなに互いを思いやっていた二人なのに…
それでも……
それでも俺は智のことを信じてる。
智には智なりの考えがあったのだ、と。
お前はバカなのか!?って言われそうだけど、
人を殺めるのに理由があるのか、って言われそうだけど、
俺は…俺だけは智の気持ちに寄り添ってやりたい。
分かってあげたいんだ。
事情を知った上で、味方しようというのなら構うな、と、智の親父さんは言った。
智を見捨てろ、と言った。
冗談だろ。
できるわけないだろ、そんなこと?
発作を起こした礼音を見て怖じ気づいていた時の俺じゃない。
だから、智、
待ってて?
絶対に行くから。
君が背負い込んだものは、俺が半分肩代わりしてあげる。
そして、君を傷つけるすべてのものから、
君を守ってあげる……。