マリア
第28章 慟哭曲
智side
電話を切ったあと、僕の口からは大きなため息が漏れた。
『…待ってて。絶対に行くから。』
」
翔くん、ゴメンね?
僕、やっぱり行けない。
君とは生きていけない。
僕のせいで不幸になってしまった人のためにも。
それでも、今日、君に会おう、って思ったのは、
君に会って、サヨナラを言おう、って思ったから。
君に、僕の本当の気持ちを伝えたかったから。
翔くん、
僕は君のことが好きだった。
多分、君が僕を思っている以上に、
僕は君のことが大好きだった。
なりゆきでこんな関係になってしまったけど、
それでも君のことが好きだった。
驚いた時に見せるドングリみたいに大きな目も、
普段は冷静なくせに、
やってみなきゃ分かんない、とか言って、やってみせる無鉄砲なところも。
みんな、みんな大好きだった。
いつしか、そんな想いに、知らず知らずのうちに呑み込まれてしまっていて、
回りが見えなくなってたんだ。
だから礼音が、
翔くんと会ってた、って聞いた時は気が気じゃなかった。
翔くんが盗られちゃう、って。
生まれつき体が弱かった礼音だけど、
僕より賢くて、優しくて、
そして、並外れて綺麗で。
父さん母さんにも可愛がられてて。
でも、翔くんと会ってたことを内緒にしていたことを問いつめたら、必死で謝ってたけど、
興奮状態にあったこともあってそれが引き金となって発作を引き起こし、
薬を飲ませようと、あの、小物入れを手にした途端、
もう一人の僕が言うんだ。
このまま放っておけ、って。
こいつがいなくなれば、劣等感に苛まれることもない。
何より、翔くんを盗られる心配をしなくてもすむ、って。