マリア
第28章 慟哭曲
智、助けて、と、
真っ青な顔で伸ばされる礼音の細い手。
でも、
それでも、僕は、
心の声に従うように、その薬を手放さなかったんだ。
やがて、パタリ、と床に落ちたその手はもう、
動くことはなかった。
怖くなった僕は、
昨日、礼音の部屋を掃除していた母さんが、薬をうっかり別の場所に置いてしまって、
家族が出払ってしまった家で一人、発作を起こしてしまった礼音が、その薬を見つけることができずに力尽きてしまった―
そういうことにしてしまった。
ただでさえ、礼音が死んでしまったことで、パニックに陥っていた母さんは、
薬が別の場所にあった、と聞いた途端、自分が殺したのだ、と、
自分が礼音を殺してしまったのだ、と思い込み、心を病んでしまった。
父さんは、と言えば、
仲良しだった妹の礼音が死んでしまったというのに、
悲しんでいる素振りはするものの、不自然なぐらい冷静だった僕を問いつめてきた。
あっさり、自分がやったのだ、と告白した僕に父さんも動揺したのだろう。
気持ちの整理をしたいから、と、僕を家から追い出した。
一時の感情に流されてしまった結果、僕の回りには……
誰もいなくなってしまった……。