
マリア
第28章 慟哭曲
まさか……
そう思いよく目を凝らしてみるとそれは、
いや、よく見なくても人が横たわっているのだと分かった。
「さ…智…か?」
返事がない。
それどころかぴくりとも動かない。
恐る恐る側に行き、顔を覗き込む。
その顔を見た途端、俺は声をあげた。
「さっ、智っ!?」
その細い体を抱き起こし、激しく揺すった。
真っ青な顔、紫に変色した唇。
揺するたびに力なくカクカクと揺れる智の小さな頭。
まさか…ブランコに乗ってて…?
「智っ!智、しっかりしろ!」
ぺちぺちと頬を叩く。
冷たい体。冷たい頬。
目を閉じたままの智。
「そ、そうだ!!救急車!!」
なんだってこんな…!
こんなことに…!
「智、目、開けろよ!!なあ、智!!」
俺が……俺がもう少し早くここに来ることができてたらこんなことには…。
己の不甲斐なさに唇をぎゅっと噛みしめた。
その時だった。
智の瞼がピクピクと痙攣するように動いて、
微かだけど、
唇が動いたような気がした。
