マリア
第28章 慟哭曲
「さっ…智!?」
何かを言おうと動き続ける唇。
その言葉を聞き取ろうと、智の唇に耳を寄せた。
そして、微かに聞き取れた、俺の名を呼ぶ智の声。
「しょ……く…」
「智……智、よかった!!あと少しの辛抱だから!」
「そ……ら」
「えっ!?空?」
瞬間、微笑んだように表情が和らぎ、首が上下に動く。
「つ……かめ…」
弱々しく紡がれる言葉。
何かを伝えようと動く白い指先。
遠い目をしながら言った、あの日の言葉が過る。
『綺麗な空が見たい。』
智「ねぇねぇ、翔くん。」
「何?智くん。」
智「ボクたち、どれくらいおっきくなれるのかなあ?」
「智くんは大きくなりたいの?」
智「うん!!」
「どれくらい?」
智「んーとね、お空に手が届くぐらいおっきくなりたい!!」
このぐらい、って、
智は小さな手を思い切り広げた。
「じゃあ、大キライな牛乳飲まなきゃ、じゃん?」
智「えー!?やだぁ!!」
「だって、牛乳飲まないと大きくなれない、ってママ言ってたよ?」
智「そうなんだ…」
智はしょんぼりと肩を落とすと、近くにあった棒切れを持ち、
今、まさに沈もうとする太陽を砂場の砂に描き始めた。