マリア
第28章 慟哭曲
「智くん、お絵かき、じょおずだね?」
えへへ、と、智は得意気に鼻の下を指で擦った。
「ママ、遅いね?」
智「うん……」
その日、お袋たちの迎えが殊の他遅くて、
ならば自分たちで帰ろうか、とばかりに二人で手を繋いで歩き出した。
当時、俺たちの家は隣同士で、
智と俺のお袋どちらかが俺たちを迎えに来てくれていた。
そうして、たまたま通りがかった小さな公園で、
智があのブランコを見つけた。
智「ねぇ、翔くん見て?ブランコがある♪」
キラキラした目で俺を見る智。
「わ、わぁ…ホントだ。」
当時、既に高いところが苦手だった俺は、
もう日が暮れるから、とばかりに智を急かした。
でも…
智「ねぇ、乗ろうよ?」
「えっ…?」
青ざめている俺に、先、乗っていいよ?と、智が笑いかける。
「ボ、ボクはいいよ?智くん、乗りなよ?」
と、嬉しそうに座板に腰かけた智の背中を思い切り押した。
きゃっきゃっとはしゃぐ智に、調子に乗って力一杯押していた俺も悪かったんだと思う。
智も段々と乗っかってきてもっともっととせがんできた。
俺は俺で、智が楽しそうにしていることが嬉しくてつい渾身の力で押した途端、
智の小さな体が、フワリと宙に浮いた。