マリア
第5章 三重奏曲
花火大会当日。
翔くんと駅で待ち合わせていた僕と礼音は、父さんの運転する車で駅へ向かった。
「智、礼音を頼んだよ?」
無言でうなずく僕の隣で、礼音は久し振りに袖を通した浴衣にご機嫌だった。
「あんま、はしゃがないでよ?」
礼「分かってる!」
「どうだか…」
そんなやり取りをしているさなか、翔くんが手を振りながらこちらへ走ってくる姿が見えた。
翔「見違えたじゃん?」
翔くんに褒められた礼音は、上機嫌でくるり、と回ってみせた。
礼「智、ってば、馬子にも衣裳、とか言うんだよ!?酷くない?」
「だって、ホントのことだから。」
翔「んー、でも、ちょっと大人っぽすぎるかなあ。」
「ほら!だから、自分の着なよ、って言ったのに?」
礼「いいじゃない!?久しぶりのデートなんだから!!」
「はいはい。」
礼「行こ?翔くん。」
翔くんと指先を絡めるように手を繋ぐと、
二人は、まるで、僕が今、その場にいないかのように見つめあい、笑いあいながら前を歩き出した。
そんな二人の姿を見てしまうと、なおのこと思ってしまう。
二人は、物語世界から抜け出してきた王子さまとお姫さまなんだから、
セックスとか、俗っぽいことには縁遠い存在なんだ、って。