マリア
第28章 慟哭曲
あっ……と、思った時にはもう既に、
智の小さな体は地面にあって、ダンゴムシのように丸まったまま、しばらく動かなかった。
「さ……智…くん?」
幼いながらもさすがにヤバいと思った俺は、
恐る恐る智に近づいていき、呼びかけてみた。
すると、智はガバッと体を起こし、痛い痛いと火がついたようにわんわんと泣き始めた。
「智くん智くん、だいじょうぶ?」
額からだらだらと血を流す智を見て、智が死んでしまう、と思い込んだ俺は、
泣きながら智をおぶり、家に走った。
奇跡的に、智は額に数針縫うケガと、手足に擦り傷を作っただけで、ピンピンしていた。
だから…
あの時奇跡的に助かったんだからと、
祈るような気持ちで、氷のように冷たくなってしまった智の手を握りしめた。
そ、そうだ!!あの、手袋…
無造作にポケットに詰め込んであったあの、白いフワフワの手袋を智の手にはめてやる。
智「あっ…たか…い…」
うっすら微笑むと、智は俺の顔を引き寄せるように、
白い、フワフワの手袋をはめた手を頬に伸ばし、掠れた声で耳元で囁いた。
キスして?と。
言われた通り、智の顔をさらに引き寄せ、すっかり冷たくなってしまった智の唇にキスをした。