マリア
第28章 慟哭曲
だが、
唇を重ねた途端、智の手がぱたり、と俺の頬から滑り落ちていって、
腕の中の智の体が弛緩してゆくのがわかった。
ゆっくり顔を離すと、
智の頬を一筋の涙が雪の上に伝い落ちた。
でも、涙のあとを指先でなぞるとまだ温かくて、
一時的に意識が遠退いてしまっただけなんだ、と自分に強く言い聞かせながら、
救急車が到着するまでの間、すっかり冷えきってしまった智の体を抱きしめ温めた。
もうすぐだからと、
あと少しの辛抱だからと智に、自分に言い聞かせながら。
でも、智の体からはもう、
唇や、指先からも、
瞼さえももう、ぴくりとも動かない、息づかいさえも感じられない、
鼓動すら一切伝わってこない。
それでも俺は、
智が目を開け、その指先で俺の頬に触れながら俺の名を呼んでくれることを信じ、
再び降りだした雪に智が凍えないようにその体を強く抱きしめ続けた。
奇跡、という、
不確かな希望を抱きながら。