マリア
第28章 慟哭曲
すっかり冷たく硬くなってしまった智の体を抱きしめたままその場にしばらく蹲っていると、
聞き覚えのある、若い女の声が聞こえたような気がして顔を上げた。
そこには、黒装束の、
頭から黒の薄いヴェールのようなものを被った若い女と男が立っていて、足音もなく俺に近づいてきた。
そして、女の方が、俺たちのそば近くに来るとその場にしゃがみこんで腕の中の智の顔を覗き込んだ。
そして、少し顔を上げ、俺の顔をちら、っと見て微笑んだ。
その、見覚えのある顔に息を飲む。
『……翔くん。もう、いいよ?』
あや……ね?
『ありがとう。智のこと。もう十分だよ。』
「な、何が十分なんだよ!?俺と智はこれから…」
『…もういいの。これ以上は翔くんの手に負えない。』
「そんなことない!!まだ… 」
智の顔を見つめたまま、礼音は無言で首を振る。
『もう見てられないの。あなたたちのことが。だから…』
礼音の、青白い細い手が智の頬を撫でた。
『…約束通り、智は私が連れていく。』
「な…何言ってんだよ!?智はまだ生きてる!生きてんだよ!?」
すると、礼音はいつの間にか側に控えていた黒装束の男が袖口から取り出した太く短いナイフを受け取ると、
智の脇腹に静かに突き刺した。