マリア
第29章 追想曲
「ただいま…」
自分一人の部屋に、自分の声が響き渡る。
『家に誰もいなくてもただいまは言うもんなんだよ?』
家にただいま、ってね?って。
よく言われてたなあ、俺、って、つい苦笑してしまう。
お祖父ちゃん子だった君は、俺にいろんなことを教えてくれた。
メシ食ってすぐの歯磨きはよくないとか。
あとは、何で牛乳が飲めなくなったか、その理由まで。
『いきなり白メシに牛乳かけて食べ始めるんだもん。』
それで飲めなくなったらしい(笑)。
部屋の明かりをつけ、荷物を床に置いてから、クローゼットから礼服を取り出す。
俺はあと何年このカッコで君に会いに行けるのかな?
なんて考えながら、コンビニ弁当にパクついた。
その日の夜は、疲れていたにも関わらず酷く目が冴えてしまって、何度も寝返りを打っていた。
時計を見ると、かれこれ三時間ぐらいそうしていたらしい。
明日が明日だから、全く眠らない、って訳にもいかず、
人肌に温めた牛乳をちびちび飲んだ。
スマホの中で気持ち良さそうに眠る君の姿を眺めながら。