マリア
第29章 追想曲
「あのさ、それ、礼音にやるんだけど?」
『じゃあ、僕、半分、もらっていい?』
「は?」
『だって、誕生日一緒だもん。』
「だーめ!!」
その手から花束を奪い返す。
『翔くんのケチ!』
が、結局、
花束のうちの何本かは彼の手に渡ってしまったけど。
それからは、特に催促を受けなければ、
礼音にはピンク、彼には白のバラの花束を渡した。
男が男に花、なんて、何だか変な感じもしたが、
喜んでいるんだから別にいいんだろうと思った。
だから、君にあげる花束は白いバラ。
今年も、去年も、一昨年も、
十五年間、ずっと…
ずっと、君の笑顔を見ていたかったから。
共同墓地は、そんな高いところにはなかったけど、
そこからの景色は抜群で、
桜の季節になると、市街地の桜並木が見渡せた。
でも冬は、標高があがるに連れて体感温度は地上とは劇的に違い、
きちんと防寒対策をしてきていたとしてもその寒さは半端なかった。
だとしても、
一年に一回、
君に会える特別な日。
大雪で交通規制がなされていなければ、必ず足を運んでいた。
何故なら、
俺以上に、彼に縁のある人が、
毎年訪れているから。