マリア
第29章 追想曲
「櫻井くん。このあと何か予定はあるかね?ないなら、この近くに新しくできた蕎麦屋があるんだが、一緒にどうかね?」
「いえ…僕は…」
「そう言うと思っとったよ?」
彼は柔らかく微笑むと、切なそうに墓標を見上げながら手を合わせた。
「じゃ、私はお先に失礼するよ?」
付き添いの女性が、彼の膝掛けの位置を直し、車イスの向きを変えた。
「…私はあと何回、孫の墓参りに来ないとならんのかね?」
彼は俺の答えを待つでもなく、答えを求めるでもなく帰っていった。
もし、その問いかけに答えがあるとするならば、
俺は多分、こう答えるだろう。
「生きている限り、ずっと…」
何十年も、何十回でもここに来る。
そうしたいがために俺はここに来たんだから。
いつだったか…
何気無く、君が俺に手渡した四つ葉のクローバーで作った栞を見せてやると、感激して泣き出してしまった。
そんな君に俺がかけた言葉は、
「ずっと一緒にいよう」だった。
何気に、でも、真面目に言ったつもりだったのに、君は笑うんだ。
『プロポーズみたい。』
って。
そう言うんなら返事を聞かせて?と畏まると、まさか(?)のごめんなさい。
ガックリ肩を落とす俺に君は、俺の手を握りながらこう言った。
『受験が終わったらどこか行こうか?』
君と交わした小さな約束が、果たされることはなかったけど。