
マリア
第29章 追想曲
彼らは一旦東京を離れたあと、とある地方都市に降り立った。
だが、土地勘がない上に五体満足ではない体。
バリアフリーの物件を当たるも中々思ったものに行き当たらず、
ホテルの一室でいたずらに蓄えをすり減らしていた。
そんなある日、ホテルの常連客である一人の年配の紳士が体調を崩し、
偶然その場に居合わせた松本先生が応急処置を施し、到着した救急車に搬送された紳士は九死に一生を得た。
お礼がしたいと、後日二人は紳士に呼び寄せられたが、
頑なに厚情を拒む兄を見かねた二宮が窮状を訴えると、
ならば、と、今のこの場を快く提供してくれた。
ご丁寧に、バリアフリーに改装までしてくれていたらしい。
和「芸は身を助ける、ってのは、正にこのことだよね?」
と、呑気にスープパスタをずるずると啜る二宮を横目に、
松本先生は膝の上にサラダを乗っけて、俺の目の前に置いた。
潤「遠慮しないで、どうぞ?」
先生は器用に車イスを操り、テーブルの定位置へと移動する。
和「うん。うんまい。医者より料理人の方が向いてんじゃないの?」
潤「かもな?」
兄弟は顔を見合せ微笑んだ。
