マリア
第29章 追想曲
「あっ……!?すっ、すいません、つい…。」
潤「いいけど?」
先生の笑顔と共に、部屋中にコーヒーの香りが広がる。
潤「僕と和也があまりに仲がいいもんだからヤキモチを焼いたらしいよ?」
「は?ヤキモ…?」
潤「見かけによらず、独占欲が強かった、ってことだ。」
「独占欲…」
って、笑顔で語れることじゃあ…
潤「気にしなくていいからね?って、帰してあげたけどね?」
「いや…でも…」
失礼だ、と思いつつも、先生の足につい目がいってしまう。
潤「言っただろう?誰に何を言ったところで、この足は元には戻らない。」
「でも…」
潤「あの場に君が居合わせてくれただけでも僕には幸運だった。」
目の前に置かれたカップからなんとも言えないいい香りが漂う。
潤「生きて…また、あの子に会えたんだから…。」
コーヒーを一口飲み、満足そうに頷く。が、すぐに冴えない顔つきでカップをソーサーに置いた。
そう…か。
「許す」ことで先生は智を断罪したんだ。
一生、罪の意識と向かい合って生きてゆけ、と。
潤「でも……君には悪いことをしてしまった。」
目を固く瞑り、テーブルに両肘を付いて大きく息を吐いた。
潤「まさか、命の恩人である君が、彼の最後を看取っていたなんて…。」