マリア
第29章 追想曲
あの日…
智が俺の腕の中で息絶えた日、
病院へ駆け付けたのは父親だけだった。
智と俺を乗せた救急車が病院に到着した時にはもう、智は既に心肺停止の状態で、
対応した医師により死亡が確認された。
「翔くん…」
放心した状態で、処置室の前の椅子に体を預けていると、
青ざめ、息を切らした智の父親が、いつの間にか目の前に立っていた。
「智は…智は……?」
溢れ出そうになる涙を堪えながら、頭を左右に振るのが一杯一杯だった。
「そう…か。」
おじさんは、
中の様子を確認するみたいにドアを開けて、
静かにドアを閉めた。
しばらく、中からボソボソと話す声が聞こえてきて、
医師と看護師が一礼をしながらドアを閉め立ち去っていった。
それから、少し間を置いてからおじさんが部屋から出てきて、俺の隣に座る。
「翔くん、今日は色々とすまなかったね?」
「…いえ…。」
「最期まで、智の側にいてくれてありがとう。」
今度は無言で首を振った。
「智の友達で……いてくれて……ありがとう。」
友達……
それまで何とか堪えていた涙が一気に溢れ出た。
そうか…
俺と智は…
友達…だったんだよな?