マリア
第29章 追想曲
その後、智の父親から連絡をもらったのは、納骨を済ませた後だった。
地方の、智の母親の実家の墓に納骨した、と。
俺は、受話器を静かに置くと、
当たり前のように自室に籠った。
「どうして…どうして智くんをそんなところに?」
『私とて、智をそんなところに葬りたくはなかった。だが、娘や妻のことを考えると…』
納得できなくても納得しろ、と言わんばかりのおじさんの口調に愕然とする。
あの日、病院で会ったおじさんは別人だったんだ、と。
俺は知らない誰かと話してたんだ、と。
そうして、その年の受験は尽く失敗し、ますます引きこもるようになった俺は、
朝から晩まで何をするわけでもなく部屋で過ごした。
食事も殆ど喉を通らず、気がついたら、ベッドの上でうとうとしていた、ってことはざらで、スマホさえも電源を落としたままだった。
今が朝なのか夜なのかさえよくわからない、
今日が何月何日の何曜日なのかさえも知らない。
そんなことは今の俺にはさほど重要でもない。
このまま、何も食べず、ぐっすり寝ることもせずに日々を過ごしていたら智に会える。
迎えに来てくれる、って思うと、
いくらか気持ちは軽くなった。