マリア
第5章 三重奏曲
翔side
智「あのメッセ、礼音だったの?」
てっきり礼音そっちのけでメッセを送ってたのが俺だと思い込んでいた智は、
どうしたものか、と電車の窓を見つめたままため息をつき、唇を尖らせた。
智「よかれ、と思ってしたことだったんだけどな?」
「ごめん。俺がついていながら」
智「いいよ?翔くんは悪くないよ?むしろ、礼音のワガママを謝らなきゃ。」
智はゴメンね?と、
俺を挟み向こう側で居眠りをしている礼音をちら、と覗き見た。
智「礼音はさ、昔っからこういうイベントは僕と一緒でないとなかなか行きたがらないんだ。だから…」
断続的な電車の震動で、ちょうど礼音の体が俺の肩に凭れかかる形になる。
智「そろそろ一人立ちさせてあげたほうがいいのかな?って。」
欠伸を噛み殺しながら智が言う。
智「でも、病気のこともあるから無下にも出来ないしね?」
そう、智と別行動を取り始めてからの礼音はまるで泣きながら母親を探す幼子のようで、
俺の手からスマホを奪い取る礼音を咎めることさえ出来ず、
ただ、泣きそうな顔をしながらスマホをタップする礼音を見ていることしかできなかった。