
マリア
第30章 祝歌
「あの……先生?」
中「んー?」
「先生はなんで医者になったんですか?」
中「どうした?いきなり。」
「すいません。何となくですけど?」
中居先生はカップをテーブルの上に置くと、テーブルに両肘を付き、その上に顎をのせた。
中「今だから話すんだけど、ガンだったんだよ、俺。ほんのガキん時。」
「え…?」
昔、突然の高熱に魘されて、駆け込んだ先の病院の先生に助けられて、それで医者目指しました、的なノリじゃないことに驚く。
中「でもさ、その時、俺の主治医だった先生が笑いながら言ったんだよ。『大丈夫です。治りますからね?』って。」
カップをぐっ、とあおりコーヒーを飲み干すと、
中居先生は大きく息を吐いた。
中「その先生の言う通りだったよ?」
「…それが理由なんですか?」
中「ん?」
「医者になった理由。」
中「うん。」
「そう…なんですか?」
中「何だよ?もっと、感動的なエピソードが欲しかったのか?」
「そう…ですねぇ…なーんか、こう、その先生のこういうところに感銘を受けて、とか…」
中居先生ははあ、と聞こえよがしにため息をつくと、テーブルにわざと音を立てカップを置いた。
中「…櫻井。」
「え?は、はい?」
中「逆に聞くけど、お前はどうなんだ?なんで、医者になろう、って思ったんだ?」
