マリア
第30章 祝歌
「俺は…」
答えられない理由ではなかったけど、
これ、という答え方を用意できなかった、ってこともあって、 咄嗟に返すことができなかった。
中「どうせ、優等生のお前のことだからある先生に感銘を受けて、とか、だろ?」
「どうして…?」
中「…て、顔に書いてある。」
「えっ?あっ…!!」
顔中ペタペタと触りながらテンパる俺を後目に、中居先生はそばにあった雑誌を手に取ってパラパラと捲った。
中「まあ…でも、俺も似たようなもんだがな?」
と、今度は手にした雑誌をテーブルに投げ捨てた。
中「何か…こう…カッコよかったんだよなあ。」
中居先生は優秀な外科医で、
今日はたまたま、こうやって俺とゆっくり話せていることが珍しいぐらい忙しい身の上で、
中には、中居先生に手術を、と、遠路遥々訪ねてくる人もいた。
中「ま、その先生は内科だったんだけど、退院するとき、お袋がその先生のことをスゴい人みたいに言ったんだよ?そしたら、その先生、何て言ったと思う?」
「何て言ったんですか?」
中「『僕じゃなくて息子さんを誉めてあげてください』って。」
うーん、普通…かな?(汗)
中「…普通だろ?」
「えっ!?は、はい。」
び、…びっくりした。
中「そういう普通にカッコいいことを言ってみたかったんだよなあ。」