マリア
第30章 祝歌
雅紀たちが帰ったあと、俺は智のじいさんに連絡していた。
もうすぐ子供が生まれる友だちがいて、どんな名前にしようか悩んでる奴がいる、って。
そいつに男の子と女の子の双子が生まれるんです、って、言ったら、
智のじいさんは絶句していた。
しばらくして、電話の向こうから啜り泣く声が聞こえてきて、教えてくれてありがとう、と、掠れた声で礼を言われた。
また、智と礼音に会える、と。
雅『名前つけてくれたお礼がしたい、って、言ったら、赤ちゃんの顔見せて?って?』
赤ん坊をあやすじいさんを思い浮かべては、自然と頬が緩んだ。
香「…ね、ね、櫻井、どうしちゃったの?」
中「ん?」
香「スッゴいニヤニヤしてんだけど?」
中「ああ…あの気持ち悪いヤツだろ?ここ、二、三日ずっとああなんだよ?」
香「ふーん。春だからかな?」
中「名前が櫻井、なだけに?」
ふと、視線を感じて顔をあげると、遠巻きにしている二人の先輩と目が合った。
「お…お疲れさまです。」
香「おっ…お疲れ…」
もしかしなくても、ずっと見られてた?
急に恥ずかしくなって、白衣を羽織り、慌てて医局を飛び出した。