マリア
第30章 祝歌
「じゃあ、胸の音聞かせてね?」
と、小さな男の子の体に聴診器を当ててゆく。
「はい、いいよ?」
と、そばに控えていたナースに注射の指示を出す。
母「先生、うちの子…」
「ああ。風邪ですね?ただ、ちょっと熱が高いので…」
と、ナースが注射の用意をしている姿を見て、男の子の顔がさらに青ざめた。
「せんせ…ちゅうしゃするの?」
「うん。我慢できる?」
唇を噛みしめ、泣きそうな顔で俯く男の子の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「ほーら、泣くなよ?男の子だろ?そんなんじゃ、大きくなったらお母さん守れないだろ?」
「ん…。」
涙が盛り上がった目をごしごしと擦りながら男の子は大きく頷いた。
診察室を出、大きく伸びをしながら歩き出して程なく、
こちらに向かって手を振りながらやってくる車イスが目に入った。
それは、頭からニット帽を目深に被った、あの、「ゆうりくん」と呼ばれていた少年だった。
しかも、少年の車イスを押していたのが…
和「お久しぶりです。『櫻井先生』?」
ゆうりくんは、俺と二宮を残し、
笑顔で手を振りこの場をあとにした。