マリア
第30章 祝歌
和「ね、あの子もしかして…?」
椅子に腰かけながら二宮が口を開く。
「ああ…。」
和「この間、薬、変えたばっかだ、って言ってたから。」
「そ…か。」
ほんの数ヵ月前、トランプで俺を負かせた少年・ゆうりくんは抗がん剤の影響もあってか、今は、自分の足で歩くこともままならなくなっていた。
和「あんなにいい子なのにね?」
「…うん。」
正直、もう、
手の施しようがない状態だった。
和「まったく、アンタといい、うちの兄貴といい、なんでわざわざ好き好んでこんな重たいもん背負い込むかね?」
「…人のこと言えんのかよ?」
あれから二宮は夜間の学校に入り直し、卒業後、看護の専門学校に進学、
今は東京の病院で看護師として働いていた。
和「俺の場合、必要不可欠だからね?車イスのおっさんの世話もしなきゃだし?」
「おっさん、て、お前な…」
和「…最後の最後まで俺の手で世話したいんだよ。後悔しないように…。」
瞬間、視界が揺らいだような気がして、俺は天を仰いだ。
「…先生はどんな感じ?」
和「ん?元気元気。今日、アナタに会う、って言ったら一緒に来たい、なんて言い出すもんですから、あなたはあなたで職務を全うしてください、って置いてきました。年甲斐もなく拗ねてましたけどね?」