マリア
第5章 三重奏曲
礼「う…ん…」
目を覚ました礼音の声に俄に現実に引き戻される。
礼「翔くん、顔色悪い…よ?」
「え…?そう…かな?」
礼「もしかして電車に酔った?」
「…かな?」
礼音から顔を逸らし笑顔を作る。
礼「ふーん、意外…だね?」
「そう?俺、こう見えて繊細だから。」
礼「こう見えて、って?」
おしゃべりの止まらない礼音の唇にキスをする。
礼「ちょっと、誰かに見られたら…」
俺の体を押し戻す礼音を嘲笑うようにその体を引き寄せる。
「見せつけてやればいいよ。その誰かに。」
そう、隣で眠ってる智にも。
俺は礼音の恋人なんだ、って。
俺は君の友人なんだ、って。
でも…
礼「翔…くん?」
どうして…かな?
俺が礼音に触れるたび、
その瞬間からその場所は礼音ではなく、
全部智になっていく。
額に掛かる髪を掻きあげる指先を追う目も、
頬を撫でられる感触に照れたように微笑む表情も、
顎を持ち上げた途端、キスを急かすように媚びる微笑も全部…
智、すべて君に見えてしまうんだ…。