マリア
第5章 三重奏曲
は…重症だな。
思わず漏らしてしまった笑みに礼音が眉をひそめる。
礼「何?」
「ごめん。何でもない。」
礼「手、離して。」
冷たく言い放つと、礼音は俺から少し離れて座り直した。
礼「そろそろ起こした方がいいんじゃない?」
「え?」
礼「智。」
俺に寄っ掛かったまま、無防備な寝顔を晒す智の体を揺すった。
智「ん…あ!…ごめん。」
礼「智、ヨダレ。」
智「え?あ…」
智は慌てて口元を拭った。
礼「ウソ。」
智「え?あ?ウ、ウソ?」
礼「もう着くよ?」
礼音は電車が減速し始めると素早くシートから立ち上がってドアの手すりの前に移動した。
それを見た智が慌てて礼音に続く。
俺の顔をチラチラと見ながら。
停車した電車のドアが開き、振り向きもせず足早に歩いてゆく礼音に智は、
怪訝な顔で首を左右に傾げながらついてゆく。
その二人のあとをゆっくりと追いかける、俺。
やがて、改札を抜け、駅の外に出ると、
すでに迎えに来ていた二人の父親が運転する車が行ってしまったあとで、
二人の姿はそこにはなかった。