マリア
第6章 練習曲
和「じゃあ、俺、出てるから。」
片手を上げながら、診察室を出ようとする二宮くんに声をかけた。
「あっ!?あの…ありがと。」
一瞬、顔を上げた二宮くん。
会ってから、まともに笑顔なんて見たことないな、と思っていたけど、
笑った顔が意外に幼くて少し笑ってしまった。
和「何?俺、笑われてんの?」
「ゴ、ゴメン!そんなつもりじゃ…。」
和「ならいいんだけど…。」
不機嫌そうに、ゲームの時間が惜しい、とばかりにカバンからゲーム機を取り出しながら出ていった。
潤「初めて見たな…。」
「え?」
潤「あ…いや、何でもない。で、何か悩みごとがあるとか?」
「あ…は、はい。」
潤「妹さんがまた、入院したことと関係ある?」
ずばり言い当てられて、
思わず口を噤んでしまう。
「実は…怒らせてまったんです。」
潤「誰を?妹さん?」
「…と、その彼氏。」
潤「そう…」
「初めに…彼氏に…友達に伝えたんだけど、僕の言い方が悪くて…その…」
そう言えば確か…。
僕は、必死に記憶の糸を手繰りよせた。