マリア
第6章 練習曲
潤「…のくん?大野くん?」
「えっ?…あ、は、はい?」
潤「大丈夫?ぼんやりして?」
間近にあった松本先生の顔にびっくりして我に返る。
潤「もしかして…眠れてないんじゃないの?」
「そっ…そんなことありません!」
潤「クマ…出来てるよ?」
「あ…。」
松本先生は微笑みながら自分の下瞼を指差した。
潤「僕は医者だからね?そういう些細なことも見逃さないんだよ?」
「…そうでした。」
二人で顔を見合せ、思わず笑ってしまう。
「あの…先生、次の患者さんがいらしてますけど…。」
診察室に入るなり、担当ナースが僕をちら、と見、遠慮がちに松本先生にそう伝えた。
「あ…じゃ、僕はこれで…」
潤「ごめんね?まだ、途中だったのに?」
「いえ。忙しいのに時間作ってもらったし。」
潤「よかったらまたおいで?」
「え…でも…。」
潤「遅い時間でも早い時間でも君のためだったら体、空けとくから。」
「先生…。」
いつものように、優しく僕の頭を撫でてくれる先生。
その手の温かさ、心地よさに笑みがこぼれた。
潤「僕の番号、教えとくよ。」
僕は、先生の番号が書かれたメモを握りしめ、診察室を出た。