わたし、お金のためならなんでもします。
第1章 プロローグ
男は汚いものでも見るように顔をしかめて言った。
やはり、この男は変だ。
たしかに、まれに性的なサービスはいいから食事やお酒の相手をしてほしいと頼まれることもある。
けれど、こんかいの場合は明らかにそれとは違う。
だって多少なりともわたしに好意をもったから指名してくれたはずなのに、コイツの場合。好意どころかむしろ憎悪をいだいているようにしか見えない。
しかも「おまえなんかとSEXして性病になったらどうする」だなんて、いくらなんでも失礼すぎる……。
その言葉、そのままそっくりあんたに返してやるよ。
いくら温厚なわたしでも、さすがにこんかいはイヤミのひとつでも言ってやろうという気持ちになった。
「お言葉を返すようですがわたし毎月性病検査を受けてますから安全ですよ。逆にお客さんのほうこそ大丈夫なんですか?」
「バレた?」
「え?」
「じつは病院を抜け出してきたんだ」
「うそ!」
「本当なんだなぁこれが。ていうか、とりあえずこの問題に答えろ。エイズ、梅毒、末期ガン、多重人格。おれの病気はいったいどれでしよう?」
「ちょ、ちょっと冗談はやめてください」
「くくくくくっ冗談じゃないぞ、一発で当てたらこの10万円をやるよ」