笑い、滴り、装い、眠る。
第8章 花梨―唯一の恋―
「お前の弟も帰ってきたし、俺、そろそろ行くね?」
男「ん?もうそんな時間?」
ベッドに寝そべったまま、男は腕時計をチラ、と見、やおら体を起こした。
俺は生乾きの髪のまま、部屋の隅っこに置かれた画材やらスケッチブックやらを抱える。
「じゃ、弟くんの相手してくるね?」
ニコニコ笑いながら手を振り部屋を出ていこうとすると、
今まで、余裕の笑みを浮かべていた男に呼び止められる。
男「智。」
「何?」
男「お前、翔とはホントに何もないんだろうな?」
「どういう意味?」
男「…デキてる、とかさ?」
「何それ?超ウケるんだけど?」
軽く言ったつもりだったのに、心は酷く揺れていた。
男「俺が何も気づいていないと思ったら大間違いだからな?」
何を気づいてんだ?って、突っ込んでやろうかとも思ったけど、
笑って誤魔化せなくなりそうでやめた。
「もう行っていい?弟くん、待たせてるから?」
男「…ああ。」
背中に突き刺さるような視線から逃れるように俺は部屋を出た。