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笑い、滴り、装い、眠る。

第8章 花梨―唯一の恋―



ようやく追求の手から逃れた俺は廊下を走った。



廊下を走って、ある部屋のドアの前に辿り着く。



翔「どうぞ。」



ノックすれば聞こえてくる、少し低めのハスキーボイス。



ドアを開け入っていくと、ドングリみたいな黒い瞳で俺を見た。



「お待たせ。じゃ、早速始めよっか?」


翔「はい、先生。」



『先生』。



ここでは俺は、彼にそう呼ばれている。



彼の隣に用意された椅子に腰かけ、画架に掛けられた絵を覗き込んだ。



そこに描かれていたのは日だまりに微睡む猫。



「えっと…これだとちょっと平面ぽくなっちゃうから…」



指差しながら、どこをどうしたらいいのかを、言葉を交え彼に説明していく。



「じゃ、ここまで出来たら声かけてね?」



ポケットで鳴動しっぱなしの携帯を気にしながら部屋の隅っこに移動する。



え……珍しいな?



電話してきた相手は、さっきまで俺と一緒にいたアイツだった。



「どうしたの?電話なんて?」


男『別に…智、どうしてるかな?と思って?』


「どう…って…いつも通りのことしてるけど?」


男『ふーん。俺はてっきり翔とキスでもしてんのかな?って思ってさ?』


「…切るよ?」



バカバカしい…そんなに俺のことが信じられないのかよ?



携帯をしまいながら振り返ると、何か言いたげに顔を上げこちらを見ていた翔くんと目が合った。



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