笑い、滴り、装い、眠る。
第8章 花梨―唯一の恋―
「あ…と、ごめん。どうしたの?」
翔「聞きたいことがあって?でも、お忙しそうだし…」
「平気だよ?どうしたの?」
俺は彼の隣に座り、絵を覗き込む。
「……。」
お世辞にも上手いとは言い難い稚拙な絵。
本人も、絵は好きじゃない、と言っているように、これ以上の上達は難しいだろう。
なのに、どうして先生を付けてまで絵を習わせるのか……。
遡ること数ヵ月前……
男「なあ、ちょっと、いいか?」
大学の構内でこの男に声をかけられるまで、俺はこの男を知らなかった。
だから、いきなり馴れ馴れしく声をかけてきたこの男に俺は、あからさまに嫌悪の目を向けた。
「誰、アンタ?」
男「まあまあ、そう警戒しなさんな。」
初対面なのに、そんな馴れ馴れしくされたら普通するだろ?と、
肩に置かれた手を払い落とした。
「俺に何か用?てか、誰なんだよ?」
男「まあ、俺のことは准一とでも呼んでくれ。それより、アンタ、芸術学科の大野、って言うんだろ?」
「だから何?」
准「実は、さ、俺の弟に絵を教えてくれる先生を探しててさ?」
「悪いけどそんな暇じゃないんで…」
断ろうと背を向けると、肩を組んできて俺の耳元で声を潜めた。
准「アンタの姉貴、入院してるそうじゃないか?」