笑い、滴り、装い、眠る。
第7章 雨の日は家にいて
「さて…と…」
僕は彼…櫻井くんより前に受けたオーダーの仕事に取りかかった。
作るのはシルバーのデザインリング。
依頼してきたのは若い男性。
その人は俳優志望で、この度、やっと主役に準ずる重要な役どころに抜擢され、
その舞台が千秋楽を迎える日に、長年支えてくれた恋人にプロポーズするのだという。
サイズより少し長めにカットした銀材を成型し、蝋付けして輪っかにする。
さらに芯になる棒に通して指輪として形を整え、
ヤスリやリーマーで研きをかけて一本約三十分強の工程。
指輪表面にちょっとした細工を施したり裏面に名前とかを入れたりして一時間ぐらいで仕上がる。
喜んでくれるといいなあ。
ピカピカに磨きあげた指輪をリングケースに納めると、自然と笑みが溢れた。
遅い昼食のあと、櫻井くんがオーダーしたストラップのデザイン画を手に取った。
しばらく、そのデザイン画を眺めていたら、
僕はあることに気づく。
相手の人のイニシャル、聞くの忘れた…
さっそく僕は櫻井くんにLINEした。
そのデザイン画を置き、コーヒーカップを口元に持っていこうとした時、僕のスマホが鳴った。
『Kでお願いします。』