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罪科の音色

第1章 1

 最後の言葉が聞こえ無くなる程に、愕然としている私が居た。
どういう事だ? もうこんな時間だというのにまだ見つかっていないのか。これではまるで――。

 一瞬だけ、脳裏に手を引かれ連れて行かれたあの子の姿が浮かんだ。私の元から消えていったあの子の姿と彼女が重なる――。

 そして気付いた頃には――私はあの場に居た。
 
 自分は保護者でも何でもないのに――何故彼女を迎えに来たのだろう。

 引き取りに来た迷子センターにて、何度目かわからない自問自答だった。

 だが、その答えも辞めようとする理性も、皆水泡となって消え失せてしまうのだ。

 簡単な書類を書き終え、彼女の手を取り連れ出す。三十分とかかってはいなかっただろうに私にとっては偉く長いものに感じた。

 だがこの時、素直に私の手を取ってくれた少女を見た時――私は本当に嬉しかったのだ。

 長年の後悔や不満から解き放たれたようで。この子を本物の我が子のように可愛がろうと決心したものだった。

 
 そんなことは不可能だとも知りもせずに。

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