貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
家族、か……。
部屋に入ると、乙愛は薔薇の透かし編みがしてあるカーディガンのポケットから携帯電話を引き抜いた。
小瓶に入った二匹のアルパカがキスしているストラップは、純のブランド『Saint melody』のものだ。一七歳の誕生日、母親がプレゼントしてくれたものだ。
母親に到着の旨を打ち込む。
返信など期待していない。例のごとく入手困難だったストラップを手に入れて、乙愛の驚く顔を見て笑った彼女は、来し方に消えた。返信など求めてないのに、メール作成画面の中では、道中、愛らしい同志に知り合えたこと、『パペットフォレスト』の雰囲気が、ことこまかに文字になる。
コロボックルの置物が、乳白色のレースのかかった靴箱の上で口の両端を上げていた。
* * * * * * *
器用に手先を動かして、パステルピンクの馴染んだ亜麻色の髪を几帳面に編み込んでいく。熱心なすずめの背中に、リュウはいたずらに戯れた。
レースやリボンがふんだんに付いた洋服の所為で、心象はそこいらの少女達と変わらない。が、すずめの肢体は、にわかに存在を疑るくらい華奢だった。
ふわふわの巻き毛が首筋を撫でる。
抱き締めると鼻を掠める、すずめのたとしえなく甘い匂いがリュウは好きだ。
「リュウ様。支度、出来ないわ」
「しなくても、すずめは可愛いさ。王子と散歩でもどうですか?」
編み込みを固定していたすずめの手を取って、指を絡めた。
折角編まれた亜麻色の髪が、僅かにたゆんだ。