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貴女は私のお人形

第1章 あの人はあたしの神様で、



「王子は支度、終わったの?」

「姫と同じで、俺は普段から美に怠けていない。もとより美しい者が、たかが庶民の晩餐のために支度をするなど……おかしかろう」

「おと姫は、気合い入れるって言っていたわよ」

「あの娘は純の信者だからな。もとより、すずめとは比べものにならん」


 小さなリボンのピアスが揺れる耳朶に、キスをした。

「リュウ様……すず姫を怒らせては、怖くてよ」

「先週みたいに?」

「ええ。また、朝起きられなってもすず姫、知らない」


 あどけない顔をして、たまにすずめは、リュウの方が顔を火照らせるようなことを口にする。

 鳥かごに入って大切に育ってきた少女でありながら、その名に準じて、やはり彼女は野生の顔を持つのか。

* * * * * * *

 コテージの部屋は、なるほど、係員が誇らしがっていた通り、非の打ち所がなかった。

 可愛らしいディテールがそこらかしこに散在している。それでいて落ち着く。スリッパ一つにしても、真っ白なファーがぬいぐるみのようで、クマの耳が付いていた。

 小さな額縁やオブジェが点々と飾ってある廊下を抜けて寝室に行くと、カーテンと同じ若草色のシーツが被せてある天蓋ベッドの脚元に、二日前に地元から発送したトランクが三つ、置かれてあった。

 まるで絵本から運び出された子供部屋だ。

 キャンディの形をした枕の側に、クマのぬいぐるみ達が肩を寄せ合っている。サイドテーブルにはチューリップ型のライトがあって、化粧台に文机、クローゼットはもちろん白で統一されていた。
 一つ一つの家具に施してある薔薇の浮き彫りが、乙愛を夢見心地にとりこめてゆく。

 荷物もまだ確認していないのに、早速写メを一枚撮った。


 『乙女の避暑』の最初のイベントとなる晩餐は、夜の七時に始まる。鳩時計は、現在、四時を示している。

 今夜の晩餐の席で、乙愛は初めて、神無月純という天上にも等しい憧れの歌姫の姿にまみえる。

 乙愛もうっかりしていられない。ワードローブを選んでシャワーを浴びて、ある程度の自己紹介も筋立てしておきたいものだ。

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