貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
「お待ちしておりました。畏れ入りますが、お名前を頂戴致します」
「野原リュウとすずめですわ。こちらのお嬢さんは、文月乙愛さん」
「かしこまりました。お荷物はコテージにお預かりしておりますので、早速ご案内申し上げます」
係員が歩き出すと、乙愛達も彼女に倣った。
エントランスとは反対側の本館裏手を通り抜けると、日本らしからぬ庭園がある。本で見た、いにしえの異国の王妃が娯楽にしていたプチ・トリアノンも、こうした眺めだったのか。遠くに水車や田畑まで見える。
木々の囲繞した道を進みながら、係員は乙愛達に施設の随所を説明した。
瑞々しい葉をつけた木々が陽射しをやわらげて、白い地面に淡いグレーのレースを落としていた。木洩れ日は幻想的な輝石のように明るんで、肌を撫でる風は涼しい。
蝉の声が、葉月という季節を象徴している。
森を出ると、さっきとはまた仕様の違った庭園が見えた。オアシスにドロップを散りばめたような、色彩豊かな景観を右手に、乙愛達は野道を歩く。
透明な水が流れる小川は、一段と涼しい。石の足場を渡っていって、川を越えた。
道端に咲く小さな花を楽しみながら、散歩の気分を味わっていると、係員がコテージでもとりわけ人気と説明していたパペット区画に到着した。
「野原リュウ様、すずめ様はこちらのコテージでございます。文月乙愛様はこちらです。……鍵はここに。お出かけの際はロビーでお預かりすることも可能です」
「有り難うございます」
乙愛は鍵を受け取って、今日から一週間滞在するコテージを見上げる。
「可愛らしい部屋ですね」
白い壁に白い屋根、出窓には花の咲いた鉢が飾ってあって、若草色の小花柄のカーテンが垂れ下がっている。足許を見ると、軒先からビスケット型の扉にかけて、ハートのレンガが敷き詰めてある。銀古美のノブにはバラの装飾。芝生が青々と繁茂して、至る所に白や黄色の小さな花が咲いていた。
乙愛の視界の片隅で、左側のコテージに、すずめとリュウが楽しそうに入っていった。