貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
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本館にあるダイニングバー『迷宮ドール』は、懐古的で童話めいたその店構えから、骨董品の店を彷彿とする。
乙愛は微かに震える手を伸ばして、巨大なホワイトチョコレートにも似た扉を開く。
世界史を題材にした映画に屡々見かけられる、女中の格好を気取った従業員が、乙愛を迎えた。
「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」
「あの、神無月純様は」
「承っております。ご案内申し上げますので、どうぞこちらへ」
乙愛は従業員に従って、レジカウンターを通り過ぎた。すぐに長い回廊に出た。個室の扉が規則的に並んでいる。蜂蜜色の明かりを灯したランプが、互いの姿を確かめられる程度に視界を明るめている。
球体間接人形が、あちらこちらに飾ってあった。美しい、その眼差しは客らに媚びず、暮らしているというよりも、まさしく飾ってあると呼べるものだ。少女の絵や宗教画の入った額縁が、劣化させられた壁を華やがせていた。その節穴には白い生花。握りこぶしほどの壁の瑕疵は、鉢植えなのだ。足許に続く透明度の高いタイルには、見てみると、黒い薔薇の花びらが埋め込まれていた。
まもなくして、予約の札のかかった扉が見えた。
「こちらでございます」
従業員が扉を開いた。
外国の子供部屋を退廃的にしたような、やはり骨董品の店を彷彿とする個室が広がっていた。
「ご注文は、お連れ様がお見えになったのちで良ろしいでしょうか?」
「はい」
「かしこまりました。それでは、どうぞごゆっくりお寛ぎになってお待ち下さいませ」
乙愛が目礼して頷くと、個室の扉が閉まった。
ロック調にアレンジされた賛美歌が、どこからともなく聞こえてくる。
乙愛は、白いリボンの付いた手提げバッグを隅に置いた。