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貴女は私のお人形

第5章 きっとそれはあたしも同じで、


* * * * * * *

 本館にあるダイニングバー『迷宮ドール』は、懐古的で童話めいたその店構えから、骨董品の店を彷彿とする。


 乙愛は微かに震える手を伸ばして、巨大なホワイトチョコレートにも似た扉を開く。

 世界史を題材にした映画に屡々見かけられる、女中の格好を気取った従業員が、乙愛を迎えた。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか?」

「あの、神無月純様は」

「承っております。ご案内申し上げますので、どうぞこちらへ」


 乙愛は従業員に従って、レジカウンターを通り過ぎた。すぐに長い回廊に出た。個室の扉が規則的に並んでいる。蜂蜜色の明かりを灯したランプが、互いの姿を確かめられる程度に視界を明るめている。
 球体間接人形が、あちらこちらに飾ってあった。美しい、その眼差しは客らに媚びず、暮らしているというよりも、まさしく飾ってあると呼べるものだ。少女の絵や宗教画の入った額縁が、劣化させられた壁を華やがせていた。その節穴には白い生花。握りこぶしほどの壁の瑕疵は、鉢植えなのだ。足許に続く透明度の高いタイルには、見てみると、黒い薔薇の花びらが埋め込まれていた。


 まもなくして、予約の札のかかった扉が見えた。
 

「こちらでございます」


 従業員が扉を開いた。

 外国の子供部屋を退廃的にしたような、やはり骨董品の店を彷彿とする個室が広がっていた。


「ご注文は、お連れ様がお見えになったのちで良ろしいでしょうか?」

「はい」

「かしこまりました。それでは、どうぞごゆっくりお寛ぎになってお待ち下さいませ」


 乙愛が目礼して頷くと、個室の扉が閉まった。

  
 ロック調にアレンジされた賛美歌が、どこからともなく聞こえてくる。

 乙愛は、白いリボンの付いた手提げバッグを隅に置いた。

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