貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
「失礼致します。こちらでございます。お連れ様は、お見えになっておいでです」
「有り難う」
「メニューがお決まりになりましたら、こちらのインターホンからお申しつけ下さい。ラストオーダーは翌朝四時となっております」
「分かったわ、ご苦労様」
純が優雅に微笑むと、はにかむ従業員のかんばせが、俯いた。
石が傾斜を転がり落ちるような数秒間だった。時は、乙愛に心の準備をさせない。
純が手前の席に着いた。
まるで現実にいる心地がしない。
「ご機嫌よう」
「こんばんは!」
「遅くなってしまってごめんなさい。澄花の不手際で、予約の時間を早めてしまったの。貴女が先に来ていてくれて、助かったわ」
「そうなんですの」
「今は……五十六分ね。ぎりぎりだったわ。ここ、十分過ぎると、キャンセル扱いになってしまうの」
知らなかった。
乙愛が『迷宮ドール』に着いたのは、十五分ほど前のことだ。予約の時間に関係なく、乙愛は、相当早くに到着していた。
「天使みたい」
「えっ……」
「お洋服」
ドクイチゴの新作、もとい出来立ての参考商品を見下ろす。
小花の刺繍が入った綿レースの生地で仕立ててあるワンピースは、およそ一時間前、あずなが乙愛に着せたものだ。
重ね着に見せかけたスクエアカットの胸元は、切り替え部分に、白い小花の散りばめられたフリルレースが挟み込んである。白いサテンのシャーリングが胸を覆って、サイドデザインはリボンの編み上げ。
後ろ身頃は、オーガンジーを重ねたサテンのリボンが縦に並ぶ。一番上のリボンだけ、ふわりと長い脚は、なるほど確かに天使の羽根めいている。
七分袖から広がる二重のフリルは、ふんだんにギャザーが寄せてあって、胸元と同じ、白い小花柄のフリルレースがあしらってあった。
スカートは、アシンメトリーのドレープ。ワンピースと共布で出来た白い小花が無数に縫いつけてあって、大きなリボンが襞を固定する。見せるためのアンダースカートにも、フリルレースが何段にも重ねてあった。小さな白いサテンのリボンが、蝶よろしく散らされている。