貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
「あずなさんが、下さったんです」
「髪も彼女が?」
「はい」
何の変哲もない乙愛の姫カットの黒髪は、アップに結って緩い団子にしてあった。やはり白い花がアレンジメントしてある。
首には月と花とが交互にパンチングされたチョーカーと、花冠を彷彿とするビーズネックレス。いつものピンクベースにゴールドを足した化粧も、あずなが乙愛をドールに変えるプロセスだった。
洋服もアクセサリーも、本当にもらって良いのかと、心底、乙愛は躊躇った。
値段などつけられないのだろう。あずなは乙愛に、対価は写真を撮らせて欲しいと求めた。乙愛はもちろん快諾した。彼女の部屋にいた里沙も、何故か写メを欲しがっていた。
「メニュー、決めましょう。まず飲み物は──」
純が品書きを広げると、伏し目がちなその面持ちに、乙愛の恍惚は濃密さを強めていった。
オートクチュールの白い洋服に全く引けをとらない色素の薄い純の素肌は、真珠の粉でも叩いたようだ。
緩くウェーブのかかった長い金髪は、間近で見ると、さしずめ正真正銘の錦糸だ。否、けだしそれより艶やかだ。スワロフスキーを編み込んだネックレスを飾った首元は、柔らかそうで、あえかな花の匂いが乙愛の鼻を掠めるようだ。大きく開いた襟ぐりから、赤い蝶が覗いていた。以前、彼女のブランド『Saint melody』から出た転写シールだ。乙愛も購入したものだが、勿体なくて、未だ保存してある。
姿が美しいだとか、魂(こころ)が綺麗だとか、純は、もはやそうした域ではない。
「乙愛は決まった?」
「はいっ!えー……っと」
乙愛は跳ね上がる思いで品書きにざっと目を通す。