テキストサイズ

貴女は私のお人形

第5章 きっとそれはあたしも同じで、








 シャーリーテンプルと、薔薇を配合したセイロンティーをリキュールで割った『迷宮ドール』のオリジナルカクテル『人形の頬』に続いて、色とりどりの焼き野菜やシーフードのカルパッチョ、オリーブオイルの香るチーズとトマトの盛り合わせ、カッテージチーズとマスタードが添えられた人参スティックが運ばれてきた。デザートは、カマンベールのチーズケーキが届く予定だ。


「乾杯」


 乙愛と純の、円柱グラスが触れ合った。

 グレープフルーツの爽やかな甘みに、ザクロの優しい酸味が覗く。

 純が、蜜色の艶に満たしたグラスを傾けていた。薔薇の花びらを閉じ込めた、キューブの氷が浮かんだ『人形の頬』は、見目も美しい。


 とりとめない純の話に耳を傾けながら、料理を口に運んでも、正直なところ味など分からない。

 むしろ乙愛は、何もしないでもっぱら純を眺めていたい。彼女の綺麗な声を聞いて、綺麗な魂(こころ)を感じていたかった。



 何故、こんなに好きになったのだ。…………





「ところで」


 料理が盛りつけてあった大皿も、大分、底が見えてきた折り、純が口調を切り替えた。


「乙愛がくれた、悩み相談の件だけれど」


 夢見心地の乙愛の意識が、一気に覚めた。

  
「あの、純様。そのことですけど」


 もう、良いんです。



 二週間ほど前に書いた悩み相談を取り下げるべく、乙愛は辞退を表明した。



「私に答える資格はないわ」



「え」


 それは予想外のことだった。



「えっと……」

「乙愛の悩みに、私が答える資格はないの」


 今度ははっきり、純が乙愛を見つめて言った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ