貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
答える、資格……?
「失恋の喪失感から、立ち直れない。他人を愛する行為以外に、生きた心地を見出す術を失った」
「──……」
「過去と決別して、自分のために生きたいと、願えるようになるでしょうか」
「それは」
「乙愛のくれた、相談ね」
「はい」
渋々頷きながら、乙愛の思考は脇見する。
あずなの実用的な要望や、ノゾミの人生相談紛いとは違う。彼女らに比べて乙愛の悩みは、けだし傍目から見ればとるに足りない、小さな一過性の悲観にすぎない。
純であれば、けだしありきたりな激励でも、それがたった一言でも、乙愛の胸奥に枯れた花に給水したろう。その来し方に一点の曇りもあるまい、あまねく愛にごく自然に包まれている純であれば、人間の抱える抹消的な杞憂など、拭い去れる。
もっとも、二週間前に書いた悩みなど、乙愛はどうでも良くなっていた。
たくさんの女子達が憧れて、恋い慕う神無月純という女と、乙愛は今、とびきり贅沢な時間を共有している。
それまでのやるせない日々は、このひとときを迎えるために、運を貯蓄しておく期間だったのではないか。
「どんな人だったのか……訊いて良い?」
純が、とても優しく問うた。
初恋の少女の顔が、乙愛の目蓋の裏に映る。
温かくて、愛おしくて、彼女と過ごした全ての時間がかけがえない。
彼女のくれた言葉はどれも、乙愛の、記憶から消せない輝石だ。
思い出とは、思い出になっただけ、きらめきが褪せてゆくのと引き換えに、何故、こうも美しく磨かれる?
「可愛らしい、人でした」
赤いカクテルの入ったグラスの中身は、半分以上、減っていた。
胸にしがみつく言葉の一つ一つを揉みほぐすのは、ザクロの匂いか、乙愛の純を求める想いか。
「彼女とは、同じ高校でした。学科は離れましたけれど、大学も……同じです」
乙愛から彼女を離れて、昨年の夏以来、会っていない。