貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
事前に送った荷物の中身の大半は、洋服だ。
高校生の頃から少しずつ揃えていった、フリルやリボンのふんだんにあしらってある洋服は、さしずめ乙愛の半身だ。
なくてはならない、あって然るべきもの。
二年前、ある破綻をきっかけに、乙愛をとりまく環境は激変した。大多数の目がおそらく幸福と認めていた一家は、手のひらを返されたように蔑視やうわべの同情の餌食になって、もとより乙愛に眉をひそめていた親族達は、ここぞとばかりに攻撃した。
家が火の車だというのにどうかしている、分相応の洋服に袖を通すべきだ。
一握りの親族達は、暗に乙愛を糾弾した。
乙愛を引っ掻く攻撃が、無情になればなった分、彼らが空疎の見栄と罵る洋服は、当然のようにクローゼットの中に増えていった。
純様……。白に身を包んでいると、あたしは貴女と魂を共にしているつもりになれるのです。
トランクから、とっておきの一着を出す。
薔薇にリボンを結んだような柄が浮き出たジャガードの、ベビードール風のジャンパースカートだ。背中に大きなリボンが付いている。
乙愛は天使の衣のようなそれを、抱き締めた。
ジャンパースカートの感触を、腕に、胸に、乙愛は感じる。まるで恋人を愛でるように。
白の世界に、あたしは守ってもらってる。純様、貴女と、
……──あの人に。
もつれた来し方に星屑のようにきらめく一点が乙女の記憶に掠れると、今でも胸が抉られるように喘ぎ出す。
その疼痛みが、幸せで、泣きそうになる。
* * * * * * *
沼地を歩いて、雑木の無法地帯を分けていった先に、エメラルドグリーンの沼がある。
『パペットフォレスト』の立ち入り禁止区域に入って、奥へ奥へと進んだ先。
ここには、白い花だけが咲く。
沼のほとりの一角に、土が盛り上がっている。
千般の花が咲き乱れる盛り土は、遠目に見ると、まるで天使に供えられた花籠だ。見事に白い花ばかりが密生している。
黒い腐葉土をひたひたと踏んで、一人の女は現れた。蝉が騒ぎ立てるのもものともしない、涼しい顔だ。
ラッセルレースが合皮を覆った白いブーツのつま先が、盛り土の花籠の前に揃った。