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貴女は私のお人形

第5章 きっとそれはあたしも同じで、




「あたしの味方は、どこにいるのか分からなくなりました。小さなアパートに移り住んで、家族が各々の時間を持てなくなって以来、父の傲慢は目立つようになりました。吝嗇も程度を増しました。元々、経営者特有の守銭奴なところはありましたが……今の父は、そういう種類でもありません。彼が家族を想ってくれる気持ちを、あたしは感じていないわけではありません。母があたしを大切にしてくれていることも、分かっています。けれど、どうしてもあたしには、彼らが穢れて見えるんです。おかしいのは、未熟なあたしなのかしら……あたしも大人になったら、守りたいものが出来て、欲だって出てくるのでしょうか」



 誰でも、自分が可愛い。人間の生存本能とやらが、自ずと自己を重んじたがる。


 自分や家族の盾をつくるため、のべつ貪欲に、父や母のように人間らしく、乙愛も穢れなくてはならないのか?



「彼女だけが、あたしを支えてくれていました」



 暗い家が乙愛を羈束していた。一見すれば朗らかでも、壊れた母親に、幼い父親。彼女と、一緒に生きていければ、幸せだろうと。嚮後に、あまねく眩しい希望が開けるだろうと。乙愛の暗澹とした精神は、かつて惹かれた少女に思いを馳せて初めて、軽らかになった。彼女のための溜め息は、華やいだ、贅沢な憂いでさえあった。


 高等部で一緒にいた彼女とは、大学に進んでも友好関係は変わらなかった。



「彼女とあたしは二人きりで遊びに行ったり、フェミニストな子だったので……お決まりの『ファンなので』なんて無邪気な科白を使ったら、恋人同士みたいにして一緒にプリクラを撮ってくれたり。彼女との距離が、近付いていくような感じがしていました。楽しかったー……」



 純を好きになったのも、彼女の影響だった。


 乙愛と違って、彼女は、純のライブに参戦したこともあったようだ。



 同じ神様を、純を慕う彼女が、乙愛の生命(いのち)になっていた。

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